日本ホメオパシー医学協会の英語力


http://www.jphma.org/fukyu/country_1011110_Sleep.html
について今回は言及する。この記事は "Sleep Medicine"誌にホメオパシー睡眠障害に有効である、という論文が受理された。という内容であるが、その他の部分にあまりにひどいところがあったのでまずそこについて触れることにする。

欧州中央ホメオパシー協議会(ECCH)ホームページから(関連記事和訳引用)

9 September 2010
INDIVIDUALISED HOMEOPATHY EFFECTIVE IN SLEEP DISORDERS
睡眠障害におけるホメオパシーの有効性

ECCHは今年5月に、実際に行われた睡眠障害に対するホメオパシー療法の効果を要約した‘ホメオパシーで快眠を’というタイトルの文献を刊行しました。この文献には、Naude et al.氏の研究も含まれています。

最近発刊された定期刊行誌‘ Sleep Medicineの再考’によれば、Cooper 、Reltonの両氏がNaude氏の研究論文に言及していることは明らかです。2人の著者は不眠に対する系統的なホメオパシー療法の考察について述べていますが、ここにはNaude氏の研究は含まれていません。

Cooper 、Relton両氏の今回の系統的な考察においては、ホメオパシーのレメディー(もしくは希釈されたもの)を無作為に4回与える(RCTs)実験をすることでプラシーボと比較できると考えました。この4回の研究においては、毎回、あらかじめ決めておいたレメディー (特定のレメディーを特定の患者に与えるわけではない)を使用しました。Cooper 、Reltonの両氏は、Naude氏の研究では、患者の症状像から選んだ特定のレメディーを与えていると指摘しています。実験開始より4週間後、1週間の睡眠時間の合計において、プラシーボグループの34時間から35時間(満足な結果とは言えません)という結果と比較して、ホメオパシーのレメディーを与えられたグループは、35時間から41時間に増えました。したがって、今回の4週間に及ぶ実験の結果では、ホメオパシーの方がプラシーボより効果的であったことが立証されたのです。加えて述べるなら、ホメオパシーのレメディーを与えられたグループは、11人中11人全員が、睡眠障害のその後の経過において改善したと答えたのです。一方プラシーボグループに関して述べるなら、当初は改善されていましたが、その後症状は戻ってきたという結果になっています。

Cooper 、Reltonの両氏は、この結果については、今までの研究より被験者の数は少ないですが、この4回に及ぶ研究結果とNaude氏の研究と比較した場合の方法論的な質の高さを指摘しています。今回の結果は、将来的に有望であり、均一に高い系統的な研究結果やホメオパシーの特質の研究のために、より多くの被験者をもとに、行われるべきものです。

Cooper,Reltonの論文とは、

Sleep Med Rev. 2010 Oct;14(5):329-37. Epub 2010 Mar 11.
Homeopathy for insomnia: a systematic review of research evidence.
Cooper KL, Relton C.

School of Health and Related Research (ScHARR), University of Sheffield, Regent Court, Sheffield, UK.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20223686/

の事であろう。

 まず雑誌名「Sleep Med Rev.(=Review)」を「Sleep Medicineの再考」と訳しているが、これはわざわざ訳す必要がない。科学領域における Reviewとは、ある分野についての研究成果を総括する論文の意味であり、「レビュー」で普通に通用する。だいたい reviewを再考と訳したのならどうして「sleep medicine」を睡眠医学と訳さないのか。

 次の一節がまた意味不明であり、

Cooper 、Reltonの両氏がNaude氏の研究論文に言及していることは明らかです。2人の著者は不眠に対する系統的なホメオパシー療法の考察について述べていますが、ここにはNaude氏の研究は含まれていません。

とある。なんか論理的に破綻しているんですけど。「Naude氏の研究に言及しているのは自明」といいながら、すぐに「両氏の考察にはNaude氏の研究は含まれていない」とする。書いていておかしいとは思わないのだろうか。Cooper,Relton氏の論文を詳細に見てみると、

Volume 14, Issue 5, Pages 329-337 (October 2010)

Homeopathy for insomnia: A systematic review of research evidence

Katy L. Cooper, Clare Relton

Received 11 August 2009; received in revised form 27 November 2009; accepted 27 November 2009.

http://www.smrv-journal.com/article/S1087-0792%2809%2900126-9/abstract

論文は最終的には2009年11月27日に掲載が認可されている。注目すべきは "received in revised form 27 November 2009"である。revisedは改訂版のことであるが、通常著者が自発的に改訂することは少なく、たいてい雑誌の査読者側からの要求であることが多い。しかもNaude氏の論文の掲載は2010年であり、普通は両氏がNaude氏の論文について言及することは不可能である。実際、Naude氏の論文は

Received 30 May 2008; revised 26 October 2009; accepted 2 November 2009
(出典は別エントリーの予定)

であり、改めて言うが通常両氏がNaude氏の論文の詳細に触れることは不可能である。つまり、Cooper, Relton 両氏の論文の査読者(おそらくホメオパシーに好意的な研究者)がたまたまNaude氏の論文の存在を知っており、わさわざ出版されていない論文を両氏に送りつけて内容を追記するよう指示した可能性が高い。考察対象に含まれていない論文について言及するというのは異例の事である。

あくまで可能性の話であるので、ここで切り上げて次に行く。

Cooper 、Relton両氏の今回の系統的な考察においては、ホメオパシーのレメディー(もしくは希釈されたもの)を無作為に4回与える(RCTs)実験をすることでプラシーボと比較できると考えました。この4回の研究においては、毎回、あらかじめ決めておいたレメディー (特定のレメディーを特定の患者に与えるわけではない)を使用しました。

「レメディーを無作為に4回与える(RCTs)」? いやそれって無作為ではないのでは…。PubMedを見ると、

Homeopathic medicines: four randomised controlled trials (RCTs) compared homeopathic medicines to placebo. All involved small patient numbers and were of low methodological quality. None demonstrated a statistically significant difference in outcomes between groups, although two showed a trend favouring homeopathic medicines and three demonstrated significant improvements from baseline in both groups. A cohort study reported significant improvements from baseline. (B) Treatment by a homeopath: No randomised controlled trials of treatment by a homeopath were identified. One cohort study, three case series and over 2600 case studies were identified.

つまり、「レメディーを4回与える」のではなくて、「4つの無作為抽出試験」という意味である。日本ホメオパシー医学協会にはまともに英語を読める人はいないのか。由井寅子氏はイギリスでホメオパスの資格を取ったのではなかったのか。
しかもその後の結果は悲惨である。

・レメディーを与えた群とプラセボ群の間に統計的な有意差は見られなかった
・4つの試験のうち2つについてはレメディーを与えた群に統計的には有意ではないが改善傾向が見られた(つまり残り2つはプラセボと同等かむしろ悪い)。
・4つの試験のうち3つで、レメディー、プラセボ両群に顕著な症状の改善が見られた。

これを見た人が、「ホメオパシーのレメディーは睡眠障害に有効」という判断を下すとは到底思えない。それどころが睡眠障害プラセボ効果は極めて高い、という印象すら覚える。ところが日本ホメオパシー医学協会

この4回の研究においては、毎回、あらかじめ決めておいたレメディー (特定のレメディーを特定の患者に与えるわけではない)を使用しました。Cooper 、Reltonの両氏は、Naude氏の研究では、患者の症状像から選んだ特定のレメディーを与えていると指摘しています。実験開始より4週間後、1週間の睡眠時間の合計において、プラシーボグループの34時間から35時間(満足な結果とは言えません)という結果と比較して、ホメオパシーのレメディーを与えられたグループは、35時間から41時間に増えました。したがって、今回の4週間に及ぶ実験の結果では、ホメオパシーの方がプラシーボより効果的であったことが立証されたのです。加えて述べるなら、ホメオパシーのレメディーを与えられたグループは、11人中11人全員が、睡眠障害のその後の経過において改善したと答えたのです。一方プラシーボグループに関して述べるなら、当初は改善されていましたが、その後症状は戻ってきたという結果になっています。

Cooper 、Reltonの両氏は、この結果については、今までの研究より被験者の数は少ないですが、この4回に及ぶ研究結果とNaude氏の研究と比較した場合の方法論的な質の高さを指摘しています。今回の結果は、将来的に有望であり、均一に高い系統的な研究結果やホメオパシーの特質の研究のために、より多くの被験者をもとに、行われるべきものです。

としている。ホメオパシーは有効でないという結果を示した4つの無作為抽出試験には一言も触れず、Naude氏の論文の結果については執拗なまでにその有効性を強調している。わらにもすがる思いなのかも知れないが、たった1本の肯定的な論文で学説が覆せるほど医学の世界は甘くない。質の高い論文をいくつも発表し続けてはじめて土俵に立てるのだ。正直まともにとりあうレベルではないのだが、余りにひどいのでエントリーとした。

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