日本ホメオパシー医学協会の英語力(2)

 こんなエントリーを立て続けにかける言うこと自体アレなのだが…。対象は例によって

ホメオパシー国際評議会(ICH)秘書官のスティーヴン・ゴードン氏から 不眠治療研究で、ホメオパシーが有益であるという結果の研究論文に つき、JPHMAに報告がありました。同論文は米国の Elsevier(エルゼビア)社発行 「Sleep Medicine」というジャーナル に 受理され、論文公開されています。抄録部分から紹介させて頂きます

http://www.jphma.org/fukyu/country_1011110_Sleep.html

の一部である。この論文については「研究対象は、不眠歴はあるが現在睡眠障害であるかどうかは不明であり、しかも恐らく経験的にレメディーが効きやすいと思われる選ばれた人である」点を指摘し、一般の睡眠障害患者というセッティングとは大きく隔たりがある点について指摘した。今回問題にするのはその他の部分、

欧州中央ホメオパシー協議会(ECCH)ホームページから(関連記事和訳引用)

Objective Measures Show Positive Effects of Homeopathic Medicines on Disturbed Sleep
客観的測定によって示された、ホメオパシーレメディーの睡眠障害に対するプラス効果

ポリソノグラフ検査と呼ばれる睡眠時の客観的な検査方法による検査結果により、信頼のおける刊行誌 ‘Sleep Medicine’は2つのホメオパシーレメディーが、人が陥り易い睡眠パターンに効果があることを示していますという記事を発表しました。ポリソノグラフ検査は脳波測定や、眼球運動図(EOG)筋電図(EMG)心電図(ECG)など、睡眠時の様々な体の機能を測定できる検査です。 

今のところは、個々のクライアントに対する関連性を示唆する研究ではないが、2つのレメディーの睡眠障害に対する否定しがたい効果と、意味深い関連性は明らかであり、同じ2つのレメディーによる初期の動物実験においても、明確な結果をもたらしている。

この理論的な研究の概要と全文記事の入手は: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20673648

と高らかと謳っている。「否定しがたい」という言葉がどうにも引っかかったので、欧州中央ホメオパシー協議会(ECCH)ホームページを見てみると、

23 August 2010

Objective Measures Show Positive Effects of Homeopathic Medicines on Disturbed Sleep

An article published in the respected journal Sleep Medicine shows that two homeopathic medicines known for their impact on sleep patterns in susceptible human subjects, have positive effects as measured by objective measuring procedures called polysomnographic recordings. Polysomnographic recordings involve various sleep study measurements, including monitoring many body functions including brainwaves (EEG), eye movements (EOG), muscle activity or skeletal muscle activation (EMG) and heart rhythm (ECG).

While this is is not a study involving individualised patient prescribing it does show the positive effects of two remedies known to have a significant relevance to sleep disturbance and builds on earlier experiments in animals using the same two remedies that produced positive results.

The abstract of the study and access to the full article can be obtained here:
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20673648

 確かにpositiveには「疑いようのない」という意味は存在する。しかし科学論文の評価において、positiveを「否定しがたい」というのは少し言いすぎのような気がする。単に「効果あり」という意味で使われることも多いからだ。しかも「意味深い関連性」もこの研究で立証されたかのような書きぶりだが、原文では"known to…"とあるようにこの研究で立証されているわけではない。

 あと、

Sleep Medicine shows that two homeopathic medicines known for their impact on sleep patterns in susceptible human subjects, have positive effects

の部分の訳はメチャクチャである。この文章は、

Sleep Medicine shows that two homeopathic medicines (known for their impact on sleep patterns in susceptible human subjects, )have positive effects

という構造であり、「Sleep Medicine誌は2つのホメオパシー薬に効果があることを示した」が骨格で、括弧内はホメオパシー薬の説明である。それを「刊行誌 ‘Sleep Medicine’は2つのホメオパシーレメディーが、人が陥り易い睡眠パターンに効果があることを示しています」と訳しており、括弧内が「効果かある」にかかるように訳されている。はっきり言うがこれは高校1〜2年レベルの誤訳である。

 しかも許せないのは、原文の "susceptible"を「人が陥り易い」と訳していることである。susceptibleの意味は

 susceptible
 【形】

1. 影響を受けやすい、感染しやすい◆vulnerableと似ているが、暴力を伴わない弱さについて使われる。
  ・He's very susceptible to women who cry. : 彼は泣く女性にとても影響を受けやすい。
2.多感な、敏感な
  ・Asthmatic are particularly susceptible to ozone. : ぜんそく患者は特にオゾンに敏感である。
3.〜を受け入れる余地がある、〜を許すことができる

http://eow.alc.co.jp/susceptible/UTF-8/

であり、「陥りやすい」という意味ではない。しかもこの場合の"susceptible"は、「不眠になりやすい」という意味にも取れるが、先のエントリーで示したように「レメディーに対する感受性が高い」「レメディーが効きやすい」という意味で使われているようにも取れる。いずれにせよ、この研究が一般人の中から経験的にレメディーに対する反応が出やすい人を選別しているのは間違いなく、しかもこの事実はここで取り上げている論文を読む上での最大のバイアスであり、その事実を誤訳する、あるいは注釈にも入れないというのは、わざとやっていると思われても仕方ない。重ねて言うが、これらの誤訳は、日本ホメオパシー医学協会の中には、科学論文をまともに読める人材は一人もいないと暴露しているのと同然である。自分たちで翻訳するのはやめて、信頼できる翻訳家を雇うことを改めてお薦めする。

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