ホメオパシーのエビデンス・その3 (1)

日本ホメオパシー医学協会がまたプレスリリースを出した。

先日の日本学術会議(SCJ)会長談話に対する見解
2010年9月9日(木) ホメオパシー国際評議会(ICH)
http://www.jphma.org/About_homoe/ichpress100909.html

というもので、「科学的根拠なし」と断じた日本学術会議会長談話に対する反論である。その中の一文

3)「過去には「ホメオパシーに治療効果がある」と主張する論文が出されたことがあります。しかし、その後の検証によりこれらの論文は誤りで、その効果はプラセボ(偽薬)と同じ、すなわち心理的な効果であり、治療としての有効性がないことが科学的に証明されている。」とShang et alの論文を引用し言及しています(20)。
しかし、この論文は、ホメオパシーに対し懐疑的な部分が多く、実際ホメオパシーに対して懐疑的であった著者により偏った方法がとられ 、大いに欠陥のある研究である事が示されています(21-22)。

というところ。ここを検証しようと思う。原論文は

20.Shang A, Huwiler-Muntener K, Nartey L, Juni P, Dorig S, Sterne JAC, Pewsner D, Egger M. Are the clinical effects of homeopathy placebo effects? Comparative study of placebo-controlled trials of homeopathy and allopathy. Lancet 2005; 366: 726-32.

21.Ludtke R, Rutten ALB. The conclusions on the effectiveness of homeopathy highly depend on the set of analyzed trials. Journal of Clinical Epidemiology. 2008, 61(12), 1197-204.

22.Rutten ALB, Stolper CF. The 2005 meta-analysis of homeopathy: the importance of post-publication data. Homeopathy, 2008, 97, 169-177.

の3つ。20が英国の一般医学誌Lancetに発表された論文、21,22がそれに対する批判論文である。22はホメオパシーを指示する立場の雑誌であるので、その点は考慮に入れる必要があり、主な検証は一般的な臨床疫学誌である21が中心になる。

まずLancet論文の要約を示そう。

Background
Homoeopathy is widely used, but specific effects of homoeopathic remedies seem implausible. Bias in
the conduct and reporting of trials is a possible explanation for positive findings of trials of both homoeopathy and
conventional medicine. We analysed trials of homoeopathy and conventional medicine and estimated treatment
effects in trials least likely to be affected by bias.

 「ホメオパシーは広く用いられているが、その効果については疑問視されている。ホメオパシーについての論文も西洋医学についての論文もさまざまなバイアスが存在している。だからバイアスの影響をできるだけ排除して二つの医療の治療効果を評価しよう」、というのがこの論文の主旨である。ここで重要なのは、この論文の目的が

ホメオパシー自体の治療効果
ホメオパシーと西洋医学の治療効果の比較

の2点にあると言うことを忘れてはならない。たとえホメオパシー自体に治療効果が見られたとしても、西洋医学に比べて著しく劣っているのであれば話が変わってくる。

Methods
Placebo-controlled trials of homoeopathy were identified by a comprehensive literature search, which
covered 19 electronic databases, reference lists of relevant papers, and contacts with experts. Trials in conventional
medicine matched to homoeopathy trials for disorder and type of outcome were randomly selected from the
Cochrane Controlled Trials Register (issue 1, 2003). Data were extracted in duplicate and outcomes coded so that
odds ratios below 1 indicated benefit. Trials described as double-blind, with adequate randomisation, were assumed
to be of higher methodological quality. Bias effects were examined in funnel plots and meta-regression models.

方法は、ホメオパシープラセボ対照治験をデータベースから拾ってきて、それとほぼ同じ内容の西洋医学の論文を選んできたとある。治療効果はオッズ比に統一し、二重盲検でありかつランダム割り付けが適切に行われているものを質の高い研究と見なした、とある。

 ここでポイントとなるのは、ホメオパシーの論文はデータベースで全数拾ってきているが、西洋医学の論文はほぼ同じ内容のものを選んできた、とあること。

Findings
110 homoeopathy trials and 110 matched conventional-medicine trials were analysed. The median study
size was 65 participants (range ten to 1573). 21 homoeopathy trials (19%) and nine (8%) conventional-medicine trials
were of higher quality. In both groups, smaller trials and those of lower quality showed more beneficial treatment
effects than larger and higher-quality trials. When the analysis was restricted to large trials of higher quality, the odds
ratio was 0·88 (95% CI 0·65–1·19) for homoeopathy (eight trials) and 0·58 (0·39–0·85) for conventional medicine
(six trials).

結局、ホメオパシー側の論文は110編拾ってきた。ということは西洋医学側の論文も110編。高い質をもっていると判断されたものはホメオパシー側が21編、西洋医学側が9編。肝心の治療効果であるがオッズ比(この論文の場合、0に近い方が治療効果が高い。1以上で治療効果なし)は

ホメオパシー 0·88 (95%信頼区間 0·65–1·19)
西洋医学   0.58(95%信頼区間 0·39–0·85)

となった。95%信頼区間を見ると、ホメオパシーの方は0.65-1.19と1をまたいでいる。医療統計に詳しくない人には分かりにくい概念だが、これは「意味のある治療効果があったとは言えない」という意味であり、この治験がプラセボとの対照実験であることから、下のような結論になったと言える。

Interpretation
Biases are present in placebo-controlled trials of both homoeopathy and conventional medicine. When
account was taken for these biases in the analysis, there was weak evidence for a specific effect of homoeopathic
remedies, but strong evidence for specific effects of conventional interventions. This finding is compatible with the
notion that the clinical effects of homoeopathy are placebo effects.

ポイントは

ホメオパシーの治療効果のエビデンスは弱い
・一方、西洋医学の治療効果のエビデンスは強い
・この結果は「ホメオパシーの臨床効果はプラセボ効果である」という考え方に矛盾しない

という点である。

 統計学的な立場から言えば、この論文の結果から見て「ホメオパシーの効果はプラセボ(偽薬)と同じ、すなわち心理的な効果であり、治療としての有効性がない」という意見には賛同できない。オッズ比は0.88で1を切っているから効果はあるのである。ただそれが統計学的に有意な差として検出されなかった、ということで、正確には

ホメオパシーには若干の効果が認められるが、それがプラセボ効果を超えた意味のあるものとは言えなかった

というのが正しい。Lancetの論文はちゃんとその点をわきまえていて「ホメオパシーの治療効果のエビデンスは弱い」と言っており「治療効果がない」とは言っていない。「ホメオパシープラセボ」という考え方とは矛盾しない、と言っているが「ホメオパシープラセボだよ」とは言っていない。本文ではもう少し断定的な言い方をしているし、著者は確かにホメオパシーに対して懐疑的な立場を取っていると考えられるが、それでもホメオパシーに効果がないと言い切っているわけではない。その点から言えば日本学術会議会長談話は確かに言い過ぎである。

 しかしながら、ホメオパシーに懐疑的ながら中立的な立場を維持して書かれた論文であり、この論文を読む限りホメオパシー国際評議会が言うような「偏った方法がとられ 、大いに欠陥のある研究」であるようには見えない。それは後の論文による批判を読まないと分からない。

 あと、問題としては

・一方、西洋医学の治療効果のエビデンスは強い

という一文であり、ホメオパシーは西洋医学と比べて明らかに効果が弱いことが示されている。私にしてみればこちらの方が衝撃的な結果であるように思うのであるが、ホメオパシー国際評議会はこちらの方には一切触れていない。欠陥があるから評価しても意味がない、ということなのだろうか。

とにかく、ホメオパシー側の反論を見ないと何とも言えない。それは次回に。